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知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針

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平成19年9月28日
公正取引委員会
改正:平成22年1月1日
改正:平成28年1月21日

第1 はじめに

1 競争政策と知的財産制度

 技術に係る知的財産(注1)制度(以下「知的財産制度」という。)は、事業者の研究開発意欲を刺激し、新たな技術やその技術を利用した製品を生み出す原動力となり得るものであり、競争を促進する効果が生ずることが期待される。また、技術取引が行われることにより、異なる技術の結合によって技術の一層効率的な利用が図られたり、新たに、技術やその技術を利用した製品の市場が形成され、又は競争単位の増加が図られ得るものであり、技術取引によって競争を促進する効果が生ずることが期待される。このように、知的財産制度は、自由経済体制の下で、事業者に創意工夫を発揮させ、国民経済の発展に資するためのものであり、その趣旨が尊重されるとともに、円滑な技術取引が行われるようにすることが重要である。
 他方、知的財産制度の下で、技術に権利を有する者が、他の事業者がこれを利用することを拒絶したり、利用することを許諾するに当たって許諾先事業者の研究開発活動、生産活動、販売活動その他の事業活動を制限したりする行為(以下「技術の利用に係る制限行為」という。)は、その態様や内容いかんによっては、技術や製品をめぐる競争に悪影響を及ぼす場合がある。
 したがって、技術の利用に係る制限行為についての独占禁止法の運用においては、知的財産制度に期待される競争促進効果を生かしつつ、知的財産制度の趣旨を逸脱した行為によって技術や製品をめぐる競争に悪影響が及ぶことのないようにすることが競争政策上重要であると考えられる。

(注1) 知的財産基本法では、知的財産とは、「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」(第2条第1項)とされており、一般に知的財産とは、技術に関するものに限られないが、本指針では、知的財産のうち技術に関するもののみを対象としている。

2 本指針の適用対象

 本指針は、知的財産のうち技術に関するものを対象とし、技術の利用に係る制限行為に対する独占禁止法の適用に関する考え方を包括的に明らかにするものである。

(1) 本指針において技術とは、特許法、実用新案法、半導体集積回路の回路配置に関する法律、種苗法、著作権法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)及び意匠法によって保護される技術(注2)並びにノウハウ(注3)として保護される技術を指す。
 これらの技術の利用とは、法的には当該技術に係る知的財産の利用にほかならないから、本指針では、以下「技術の利用」と「知的財産の利用」とは同義のものとして用いる。

(注2) 著作権法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)ではプログラム著作物、意匠法では物品の形状に係る意匠として保護される技術がこれに当たる。

(注3) 本指針においてノウハウとして保護される技術とは、非公知の技術的知識と経験又はそれらの集積であって、その経済価値を事業者自らが保護・管理するものを指し、おおむね、不正競争防止法上の営業秘密のうちの技術に関するものがこれに該当する。ノウハウは特定の法律で独占的排他権が付与されるものではないため、特許権等によって保護されるものと比べ、保護される技術の範囲が不確定であること、保護の排他性が弱いこと、保護期間が不確定であること等の特質を有する。

(2) 本指針で対象とする技術の利用に係る制限行為には、ある技術に権利を有する者が、(1)他の者に当該技術を利用させないようにする行為、(2)他の者に当該技術を利用できる範囲を限定して許諾する行為及び(3)他の者に当該技術の利用を許諾する際に相手方が行う活動に制限を課す行為がある(注4)。
 技術の利用に係る制限行為には、技術を有する者が、自ら単独で制限を行う場合もあれば、他の事業者と共同で行う場合もあり、技術を利用しようとする者に対して直接に制限を課す場合もあれば、第三者を通じて制限を課す場合もある。また、これらの制限には、契約中の制限条項として規定されるもののほか、事実上の制限もある。
 本指針では、その態様や形式にかかわらず、実質的に技術の利用に係る制限行為に当たるものは、すべてその対象としている。

(注4) 以下では、ある技術の利用を他の者に許諾することをライセンス(プログラム著作物の使用を許諾する行為を含む。)、当該ライセンスをする者をライセンサー、ライセンスを受ける者をライセンシーという。また、ライセンスされる技術のことをライセンス技術ということがある。ライセンサーがライセンシーに対して、第三者に対してサブライセンスをする権利を付与する場合があるが、この場合にライセンシーが当該第三者(サブライセンシー)に対して課すこととしている制限については、基本的には、ライセンサーがライセンシーに課す制限と同様に取り扱う。

(3) 本指針で示される考え方は、事業者の事業活動が行われる場所が我が国の内外のいずれであるかを問わず、我が国市場に影響が及ぶ限りにおいて適用される。

3 本指針の構成等

 本指針第2では、技術の利用に係る制限行為に独占禁止法を適用する際の基本的な考え方を明らかにしている。次に、第3において私的独占又は不当な取引制限の観点から、第4において不公正な取引方法の観点から、独占禁止法上の考え方を明らかにしている。
 本指針第3及び第4に示した<具体例>は、本指針の記述についての具体的な理解を助けるために、過去の審決における違反行為を例示として掲げたものであり、また、<参考例>は、公正取引委員会が警告を行った事件の被疑事実を参考として掲げたものである。
 なお、本指針の策定に伴い、「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月30日公表)は、廃止する。

第2 独占禁止法の適用に関する基本的な考え方

1 独占禁止法と知的財産法

 独占禁止法第21条は、「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定している(注5)。したがって、技術の利用に係る制限行為のうち、そもそも権利の行使とはみられない行為には独占禁止法が適用される。
 また、技術に権利を有する者が、他の者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は、外形上、権利の行使とみられるが、これらの行為についても、実質的に権利の行使とは評価できない場合は、同じく独占禁止法の規定が適用される。すなわち、これら権利の行使とみられる行為であっても、行為の目的、態様、競争に与える影響の大きさも勘案した上で、事業者に創意工夫を発揮させ、技術の活用を図るという、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合は、上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用される(注6)。
 なお、一定の行為が、権利の行使と認められるかどうかの判断に当たっては、権利の消尽にも留意する必要がある。すなわち、技術に権利を有する者が、当該技術を用いた製品を我が国の市場において、自らの意思によって、適法に拡布した後においては、他の者がそれを我が国の市場で取引する行為は、当該権利の侵害を生じるものではない(特許権等の国内消尽)。したがって、権利者が、自らの意思で拡布した製品について他の者が取引をする際に、各種の制限を課す行為への独占禁止法の適用は、一般の製品の販売に関する制限の場合と何ら異なるものではない。

(注5)独占禁止法第21条の規定は、同条に掲げられた法律以外の法律で排他的利用が認められる技術にも適用されると解される。また、ノウハウとして保護される技術はこれらの法律によって排他的利用権を付与されるものではないため、同条の規定は適用されないが、前記注3の特質を有していることから、それらの特質を踏まえつつ、独占禁止法第21条が適用される技術と同様に取り扱われる。

(注6)知的財産基本法においては、「知的財産の保護及び活用に関する施策を推進するに当たっては、その公正な利用及び公共の利益の確保に留意するとともに、公正かつ自由な競争の促進が図られるよう配慮するものとする。」(第10条)と規定されている。

2 市場についての考え方

(1) 技術の利用に係る制限行為について独占禁止法上の評価を行うに当たっては、原則として、当該制限行為の影響の及ぶ取引を想定し、当該制限行為により当該取引の行われる市場における競争が減殺(競争減殺には、競争の実質的制限の観点から検討する場合と、不公正な取引方法のうち第4-1-(2)に記載の観点から検討する場合があり、本項ではこれらの両方を指す。)されるか否かを検討する。
 なお、不公正な取引方法の観点から検討する際には、競争減殺とは別に、競争手段として不当か、又は自由競争基盤の侵害となるかについて検討を要する場合がある(後記第4-1-(3)参照)。

(2) 技術を利用させないようにする行為又は技術を利用できる範囲を限定してライセンスをする行為は、当該技術の市場又は当該技術を用いた製品(役務を含む。以下同じ。)の市場における競争に影響を及ぼす。また、技術のライセンスに伴ってライセンシーの事業活動に制限を課す行為は、当該技術又は当該技術を用いた製品の取引以外に、当該技術又は当該技術を用いた製品を用いて供給される技術又は製品の取引、当該技術を用いた製品の製造に必要な他の技術や部品、原材料の取引など様々な取引に影響を及ぼす。
 したがって、技術の利用に係る制限行為について独占禁止法上の評価を行うに当たっては、制限行為の影響が及ぶ取引に応じ、取引される技術の市場、当該技術を用いて供給される製品の市場、その他の技術又は製品の市場を画定し、競争への影響を検討することになる。

(3) 技術の市場(以下「技術市場」という。)及び当該技術を用いた製品の市場(以下「製品市場」という。)の画定方法は、製品又は役務一般と異なるところはなく、技術又は当該技術を用いた製品のそれぞれについて、基本的には、需要者にとっての代替性という観点から市場が画定される。その際、一般に技術取引は輸送面での制約が小さく、また、現在の用途から他の分野へ転用される可能性があることを考慮し、技術市場の画定に際しては、現に当該技術が取引されていない分野が市場に含まれる場合がある。また、ある技術が特定の分野で多数の事業者により利用されており、これら利用者にとって迂回技術の開発や代替技術への切換えが著しく困難な場合、当該技術のみの市場が画定される場合がある。
 なお、技術の利用に係る制限行為が、技術の開発をめぐる競争にも影響を及ぼす場合もあるが、研究開発活動自体に取引や市場を想定し得ないことから、技術開発競争への影響は、研究開発活動の成果である将来の技術又は当該技術を利用した製品の取引における競争に及ぼす影響によって評価することになる。

3 競争減殺効果の分析方法

 技術の利用に係る制限行為によって市場における競争が減殺されるか否かは、制限の内容及び態様、当該技術の用途や有力性のほか、対象市場ごとに、当該制限に係る当事者間の競争関係の有無(注7)、当事者の占める地位(シェア(注8)、順位等)、対象市場全体の状況(当事者の競争者の数、市場集中度、取引される製品の特性、差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)、制限を課すことについての合理的理由の有無並びに研究開発意欲及びライセンス意欲への影響を総合的に勘案し、判断することになる。
 技術の利用に関して複数の制限が課される場合、それら制限が同じ市場に影響を及ぼすのであれば、各制限が当該市場における競争に及ぼす影響を合わせて検討することになる。また、これらの制限が、それぞれ異なる市場に影響を及ぼす場合には、各市場ごとに競争への影響を検討した上で、当該市場の競争への影響が他の市場の競争に対して二次的に及ぼす影響についても検討することになる。
 また、他の事業者が代替技術を供給している場合には、これらの事業者が同様の制限行為を並行的に行っているかどうかについても検討する。

(注7) 制限行為前から当事者が競争関係にある場合、ライセンスにより初めて競争関係を生じる場合及びライセンスによっても競争関係を生じない場合が考えられる。

(注8) 技術市場におけるシェアの算定方法については、当該技術を用いた製品の市場におけるシェアにより代替できる場合が多いと考えられる。

4 競争に及ぼす影響が大きい場合の例

(1) 競争者間の行為

 技術の利用に係る制限行為が競争者間で行われる場合には、非競争者間で行われる場合と比べて、これら当事者の間における競争の回避や競争者の排除につながりやすいため、競争への影響が相対的に大きいと考えられる。

(2) 有力な技術

 有力と認められる技術は、それ以外の技術に比べて、技術の利用に係る制限行為が競争に及ぼす影響は相対的に大きい。一般に、ある技術が有力な技術かどうかは技術の優劣ではなく、製品市場における当該技術の利用状況、迂回技術の開発又は代替技術への切替えの困難さ、当該技術に権利を有する者が技術市場又は製品市場において占める地位等を、総合的に勘案して判断される。
 例えば、技術市場又は製品市場で事実上の標準としての地位を有するに至った技術については、有力な技術と認められる場合が多い。

5 競争減殺効果が軽微な場合の例

 技術の利用に係る制限行為については、その内容が当該技術を用いた製品の販売価格、販売数量、販売シェア、販売地域若しくは販売先に係る制限(注9)、研究開発活動の制限又は改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務を課す場合を除き、制限行為の対象となる技術を用いて事業活動を行っている事業者の製品市場におけるシェア(以下、本項において「製品シェア」という。)の合計が20%以下である場合には、原則として競争減殺効果は軽微であると考えられる。
 ただし、一定の制限が技術市場における競争に及ぼす影響を検討する場合は、原則として、製品シェアの合計が20%以下であれば競争減殺効果は軽微であると考えられるが、製品シェアが算出できないとき又は製品シェアに基づいて技術市場への影響を判断することが適当と認められないときには、当該技術以外に、事業活動に著しい支障を生ずることなく利用可能な代替技術に権利を有する者が4以上存在すれば競争減殺効果は軽微であると考えられる。

 (後記第4-1-(3)の観点からの検討については本項の考え方は当てはまらない。)

(注9) ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術を用いた製品の販売数量、販売地域を制限する行為は、技術を利用できる範囲を限定する行為として、権利の行使とみられるものである。しかし、後記(第3-2)のとおり、複数の当事者が相互にこれらの制限を課す行為は権利の行使とは認められない。

第3 私的独占及び不当な取引制限の観点からの考え方

 技術の利用に係る制限行為に対しては、独占禁止法第3条(私的独占又は不当な取引制限)又は第19条(不公正な取引方法)の適用が問題となり、当該行為が後述する一定の行為要件を満たし、かつ、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、第3条の規定に違反することになる。また、事業者団体が一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、第8条の規定に違反することになる(第19条の観点からの考え方は第4において述べる。)。
 一定の取引分野は、前記第2-2の市場についての考え方を基本とし、技術市場又は製品市場における取引の対象、相手方、取引される地域、取引の態様等を踏まえ、当該行為の影響の及ぶ範囲に即して画定することになる。
 競争に及ぼす影響の分析方法は、前記第2-3に述べたとおりであり、「競争を実質的に制限する」とは、市場支配的状態(注10)を形成・維持・強化することをいう。

(注10) 独占禁止法第2条第5項に規定する「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」の意義については、裁判例上、「市場における競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現れているか、又は少なくとも現れようとする程度に至っている状態をいう」などとされている(東宝・スバル事件判決(昭和26年9月19日東京高等裁判所)及び東宝・新東宝事件判決(昭和28年12月7日東京高等裁判所)参照)ところ、このような趣旨における市場支配的状態を形成・維持・強化することをいうものと解される(平成19年3月26日審決(平成16年(判)第2号))。

1 私的独占の観点からの検討

 技術の利用に係る制限行為が、「他の事業者の事業活動を排除し、又は支配する」(独占禁止法第2条第5項)ものである場合には、私的独占の規定の適用が問題となる。
 技術の利用に係る制限行為が「排除」又は「支配」に該当するか否かは、行為の態様により一義的に決まるものでなく、それぞれの行為の目的や効果を個別に検討して判断することになる。
 以下では、技術を利用させないようにする行為、技術の利用できる範囲を制限する行為及び技術の利用に条件を付す行為に大別して、私的独占に該当するか否かの考え方を述べる。

(1) 技術を利用させないようにする行為

 ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対し当該技術の利用についてライセンスを行わない(ライセンスの拒絶と同視できる程度に高額のライセンス料を要求する場合も含む。以下同じ。)行為や、ライセンスを受けずに当該技術を利用する事業者に対して差止請求訴訟を提起する行為は、当該権利の行使とみられる行為であり、通常はそれ自体では問題とならない。
 しかしながら、これらの行為が、以下のように、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、権利の行使とは認められず、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、私的独占に該当することになる。

ア パテントプール(後記2-(1)参照)を形成している事業者が、新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的理由なく拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。

 <具体例>

 ○ パチンコ機を製造するX社ら10社及びY連盟がパチンコ機製造に関する特許権等を所有し、そのライセンスなしにはパチンコ機を製造することが困難な状況にあったところ、X社ら10社がこれらの権利の管理をY連盟に委託し、X社ら10社及びY連盟が第三者にはライセンスをしないこと等の方法により新規参入を抑制していたことが独占禁止法第3条違反とされた(平成9年8月6日審決(平成9年(勧)第5号))。

イ ある技術が一定の製品市場における有力な技術と認められ、多数の事業者が現に事業活動において、これを利用している場合に、これらの事業者の一部の者が、当該技術に関する権利を権利者から取得した上で、他の事業者に対してライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。(横取り行為)
 例えば、多数の事業者がパテントプールに参加し、プールの管理者から一定の製品市場において事業活動を行うために必要な技術のライセンスを受けて事業活動を行っている場合に、プールに参加する事業者の一部が、他の参加者に知らせることなく、プールの管理者からプールされている技術を買い取って他の参加事業者に使わせないようにする行為はこれに該当する場合がある。

ウ 一定の技術市場又は製品市場において事業活動を行う事業者が、競争者(潜在競争者を含む。)が利用する可能性のある技術に関する権利を網羅的に集積し、自身では利用せず、これらの競争者に対してライセンスを拒絶することにより、当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。(買い集め行為)
 例えば、製品市場において技術Aと技術Bが代替関係にあり、技術Aに権利を有する者と技術Bに権利を有する者が、それぞれの技術が事実上の標準となることを目指して競争している状況において、技術Aに権利を有する者が、技術Bを利用するためにのみ必要であり、かつ、技術Aを利用するためには必要のない技術について、その権利を買い集め、製品市場において技術Bを利用して事業活動を行う事業者に対して、ライセンスを拒絶して使わせないようにする行為は、これに該当する。

エ 多数の事業者が製品の規格を共同で策定している場合に、自らが権利を有する技術が規格として採用された際のライセンス条件を偽るなど、不当な手段を用いて当該技術を規格に採用させ、規格が確立されて他の事業者が当該技術についてライセンスを受けざるを得ない状況になった後でライセンスを拒絶し、当該規格の製品の開発や製造を困難とする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する。
 また、公共機関が、調達する製品の仕様を定めて入札の方法で発注する際、ある技術に権利を有する者が公共機関を誤認させ、当該技術によってのみ実現できる仕様を定めさせることにより、入札に参加する事業者は当該技術のライセンスを受けなければ仕様に合った製品を製造できない状況の下で、他の事業者へのライセンスを拒絶し、入札への参加ができないようにする行為についても同様である。

オ 一般に,規格を策定する公的な機関や事業者団体(以下「標準化機関」という。)は,規格の実施に当たり必須となる特許等(以下「標準規格必須特許」という。)の権利行使が規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売の妨げとなることを防ぎ,規格を広く普及させるために,標準規格必須特許のライセンスに関する取扱い等(以下「IPRポリシー」という。)を定めている。IPRポリシーでは,通常,規格の策定に参加する者に対し,標準規格必須特許の保有の有無及び標準規格必須特許を他の者に公正,妥当かつ無差別な条件(このような条件は,一般に「FRAND(fair, reasonable and non-discriminatory)条件」と呼ばれている。また,標準規格必須特許を有する者がFRAND条件でライセンスをする用意がある意思を標準化機関に対し文書で明らかにすることは,一般に「FRAND宣言」と呼ばれている。)でライセンスをする用意がある意思を明らかにさせるとともに,FRAND宣言がされない場合には当該標準規格必須特許の対象となる技術が規格に含まれないように規格の変更を検討する旨が定められている。FRAND宣言は,標準規格必須特許を有する者には,標準規格必須特許の利用に対して相応の対価を得ることを可能とすることによって,また,規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売を行う者には,標準規格必須特許をFRAND条件で利用することを可能とすることによって,規格に係る技術に関する研究開発投資を促進するとともに,規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売に必要な投資を促進するものである。
 このようなFRAND宣言をした標準規格必須特許を有する者が,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対し,ライセンスを拒絶し,又は差止請求訴訟を提起することや,FRAND宣言を撤回して,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対し,ライセンスを拒絶し,又は差止請求訴訟を提起することは,規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売を困難とすることにより,他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。上記については,自らFRAND宣言をした者の行為であるか,FRAND宣言がされた標準規格必須特許を譲り受けた者の行為であるか,又はFRAND宣言がされた標準規格必須特許の管理を委託された者の行為であるかを問わない(後記第4-2(4)の場合も同様である。)。
 FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者であるか否かは,ライセンス交渉における両当事者の対応状況(例えば,具体的な標準規格必須特許の侵害の事実及び態様の提示の有無,ライセンス条件及びその合理的根拠の提示の有無,当該提示に対する合理的な対案の速やかな提示等の応答状況,商慣習に照らして誠実に対応しているか否か)等に照らして,個別事案に即して判断される。
 なお,ライセンスを受けようとする者が,標準規格必須特許の有効性,必須性又は侵害の有無を争うことそれ自体は,商慣習に照らして誠実にライセンス交渉を行っている限り,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有することを否定する根拠とはならない。

(2) 技術の利用範囲を制限する行為

 ある技術に権利を有する者が、他の事業者に当該技術を利用する範囲を限定してライセンスをする行為は、権利の行使とみられる行為であり、通常はそれ自体では問題とならない。しかしながら、技術を利用できる範囲を指示し守らせる行為(具体的な行為の態様は第4-3参照)は、ライセンシーの事業活動を支配する行為に当たり得るので、前記第2-1の考え方に従い検討した結果、知的財産制度の趣旨を逸脱する等と認められる場合には、権利の行使とは認められず、一定の取引分野における競争を実質的に制限するときには、私的独占に該当することになる。

(3) 技術の利用に条件を付す行為

 ある技術に権利を有する者が、当該技術を他の事業者にライセンスをする際に条件を付す行為は、その内容によっては、ライセンシーの事業活動を支配する行為又は他の事業者の事業活動を排除する行為に当たり得るので、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、私的独占に該当することになる。

ア ある技術に権利を有する者が、当該技術を用いて事業活動を行う事業者に対して、マルティプルライセンス(後記2-(2)参照)を行い、これら複数の事業者に対して、当該技術を用いて供給する製品の販売価格、販売数量、販売先等を指示して守らせる行為は、これら事業者の事業活動を支配する行為に当たり得る。

 <参考例>

 ○ A商品の生産に利用できる栽培方法及び栽培装置に関する特許権等の専用実施権を取得したX協会が、協会員の当該商品の生産量を制限して需給調整を行うことで市況安定を図ることとし、その手段として、協会員との通常実施権許諾契約の中において、実施量は地区会議において決定し、理事会の承諾を得ること、実施権者が実施量を超えて生産したときは、契約を解除することができることなどを定め、これを実施している疑いが認められた事案において、X協会の行為は独占禁止法第8条の規定に違反するおそれがあるとされた(平成6年2月17日警告)。

イ 製品の規格に係る技術又は製品市場で事業活動を行う上で必要不可欠な技術(必須技術)について、当該技術に権利を有する者が、他の事業者にライセンスをする際、当該技術の代替技術を開発することを禁止する行為は、原則として、ライセンシーの事業活動を支配する行為に当たる。また代替技術を採用することを禁止する行為は、原則として、他の事業者の事業活動を排除する行為に当たる(注11)。

(注11) ライセンシーによる代替技術の開発又は採用を明示的に禁止する場合に限らず、例えば代替技術の開発等を行わない事業者にのみ、著しく有利な条件を設定するなど、実質的にみて、代替技術の開発等を制限する場合も同様である。

ウ 製品の規格に係る技術又は製品市場で事業活動を行う上で必要不可欠な技術(必須技術)について、当該技術に権利を有する者が、他の事業者に対してライセンスをする際に、合理的理由なく、当該技術以外の技術についてもライセンスを受けるように義務を課す行為、又はライセンサーの指定する製品を購入するように義務を課す行為は、ライセンシーの事業活動を支配する行為又は他の事業者の事業活動を排除する行為に当たり得る。

2 不当な取引制限の観点からの検討

 技術の利用に係る制限行為が、「事業者が他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し又は遂行する」(独占禁止法第2条第6項)ものである場合は、不当な取引制限の規定の適用が問題となる。
 特に、技術の利用に係る制限行為の当事者が競争関係にある場合、例えば、競争者間で行われるパテントプールやクロスライセンス、多数の競争者が同一の技術のライセンシーとなるマルティプルライセンスなどにおける制限行為については、不当な取引制限の観点から検討が必要となる。

(1) パテントプール

ア パテントプールとは、ある技術に権利を有する複数の者が、それぞれが有する権利又は当該権利についてライセンスをする権利を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。パテントプールは、事業活動に必要な技術の効率的利用に資するものであり、それ自体が直ちに不当な取引制限に該当するものではない(なお、標準化に伴うパテントプールについては「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の指針」(平成17年6月29日公表)参照)。

イ しかしながら、一定の技術市場において代替関係にある技術に権利を有する者同士が、それぞれ有する権利についてパテントプールを通じてライセンスをすることとし、その際のライセンス条件(技術の利用の範囲を含む。)について共同で取り決める行為は、当該技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。
 また、これらの事業者が、プールしている技術の改良を相互に制限する行為や、ライセンスをする相手先を相互に制限する行為は、当該技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

ウ 一定の製品市場で競争関係に立つ事業者が、製品を供給するために必要な技術を相互に利用するためにパテントプールを形成し、それを通じて必要な技術のライセンスを受けるとともに、当該技術を用いて供給する製品の対価、数量、供給先等についても共同して取り決める行為は、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

エ 一定の製品市場において競争関係にある事業者が、製品を供給するために必要な技術についてパテントプールを形成し、他の事業者に対するライセンスは当該プールを通じてのみ行うこととする場合において、新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的理由なく拒絶する行為は、共同して新規参入を阻害する、又は共同して既存事業者の事業活動を困難にするものであり、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

(2) マルティプルライセンス

 マルティプルライセンスとは、ある技術を複数の事業者にライセンスをすることをいう。
 マルティプルライセンスにおいて、ライセンサー及び複数のライセンシーが共通の制限を受けるとの認識の下に、当該技術の利用の範囲、当該技術を用いて製造する製品の販売価格、販売数量、販売先等を制限する行為は、これら事業者の事業活動の相互拘束に当たり、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。また、同様の認識の下に、当該技術の改良・応用研究、その成果たる技術(以下「改良技術」という。)についてライセンスをする相手方、代替技術の採用等を制限する行為も、技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

 <具体例>

 ○ X社が、ある地方公共団体の調達に係る公共下水道用鉄蓋について、X社の実用新案を取り入れた仕様が当該実用新案を他の事業者にもライセンスをすることを条件に採用されていたところ、X社が他の事業者6社に対してライセンスをするとともに、6社が当該地方公共団体に提出する当該鉄蓋の見積価格はX社の見積価格以上とすることとしたこと、X社及び6社の工事業者渡し価格及び工事業者のマージン率を決定したこと、X社の販売数量比率を20%とし、残りをX社及び6社で均等配分することとしたことなどが独占禁止法第3条違反とされた(平成5年9月10日審決(平成3年(判)第2号))。

(3) クロスライセンス

ア クロスライセンスとは、技術に権利を有する複数の者が、それぞれの権利を、相互にライセンスをすることをいう。クロスライセンスは、パテントプールやマルティプルライセンスに比べて、関与する事業者が少数であることが多い。

イ 関与する事業者が少数であっても、それらの事業者が一定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、当該製品の対価、数量、供給先等について共同で取り決める行為や他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は、前記のパテントプールと同様の効果を有することとなるため、前記(1)と同様に、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

ウ 技術の利用範囲としてそれぞれが当該技術を用いて行う事業活動の範囲を共同して取り決める行為は、技術又は製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。

第4 不公正な取引方法の観点からの考え方

1 基本的な考え方

(1) 技術の利用に係る制限行為については、私的独占又は不当な取引制限の観点からの検討のほか、不公正な取引方法の観点からの検討を要する。
 以下では、技術の利用に係る制限行為について、不公正な取引方法として問題となるかどうかについて、(1)技術を利用させないようにする行為、(2)技術の利用範囲を制限する行為、(3)技術の利用に関し制限を課す行為、(4)その他の制限を課す行為に分けて述べることとする。なお、この4つの区分は記述の便宜上のものである。

(2) 不公正な取引方法の観点からは、技術の利用に係る制限行為が、一定の行為要件を満たし、かつ、公正な競争を阻害するおそれ(以下「公正競争阻害性」という。)があるか否かが問題となるところ、本指針において、公正競争阻害性については、第2-3に述べた競争減殺効果の分析方法に従い、

[1] 行為者(行為者と密接な関係を有する事業者を含む。以下同じ。)の競争者等の取引機会を排除し、又は当該競争者等の競争機能を直接的に低下させるおそれがあるか否か、

[2] 価格、顧客獲得等の競争そのものを減殺するおそれがあるか否か、

により判断されるものを中心に述べることとする(公正競争阻害性についてのその他の判断要素については後記(3)参照)。
 その際、[1]に関しては、制限行為の影響を受ける事業者の数、これら事業者と行為者との間の競争の状況等、競争に及ぼす影響について個別に判断する。また、[2]に関しては、どの程度の実効性をもって行われるかについて判断する。
 なお、[1]及び[2]の判断において、当該制限行為による具体的な競争減殺効果が発生することを要するものではない。

(3) 公正競争阻害性については、上記[1]及び[2]のほか、競争手段として不当かどうか、また、自由競争基盤の侵害となるかどうかを検討すべき場合があり、その際は、ライセンシーの事業活動に及ぼす影響の内容及び程度、当該行為の相手方の数、継続性・反復性等を総合的に勘案し判断することになる。
 なお、これらの観点からの検討については、第2-5の考え方は当てはまらない。

ア 競争手段として不当かどうかについては、例えば、技術取引において、自己が権利を有する技術の機能・効用や権利の内容について誤認させる行為や、競争者の技術に関して誹謗中傷を流布する行為について問題となる(一般指定第8項、第9項、第14項)。また、自らが有する権利が無効であることを知りながら差止請求訴訟を提起することによって競争者の事業活動を妨害する行為についても同様である。

イ 自由競争基盤の侵害となるかどうかについては、主として、ライセンサーの取引上の地位がライセンシーに対して優越している場合に、ライセンスに当たりライセンシーに不当に不利益な条件を付す行為について問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号、一般指定第10項)。
 後記2ないし5において述べる行為類型については、前記(2)の公正競争阻害性(競争減殺のおそれ)のほか、個別の事案によっては、自由競争基盤の侵害となるか否かについても検討する場合がある。
 なお、ライセンサーの取引上の地位がライセンシーに対して優越しているかどうかの判断に当たっては、当該ライセンスに係る技術の有力性(前記第2-4-(2)参照)、ライセンシーの事業活動における当該ライセンスに係る技術への依存度、ライセンサー及びライセンシーの技術市場又は製品市場における地位、当該技術市場又は製品市場の状況、ライセンサーとライセンシーの間の事業規模の格差等を総合的に考慮する。

(4) 以下では個別の制限行為に即し、前記(2)の公正競争阻害性(競争減殺のおそれ)の有無を中心とした考え方を述べる。
 なお、一般指定の該当項を付記する場合があるが、主として適用が想定される項であって、それに限られるものではない。

2 技術を利用させないようにする行為

 ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対して当該技術の利用についてライセンスを行わないことや、ライセンスを受けずに当該技術を利用する事業者に対して差止請求訴訟を提起することは、通常は当該権利の行使とみられる行為であるが、前記第2-1の考え方に従い、以下のような場合には、権利の行使とは認められず、不公正な取引方法の観点から問題となる。

(1) 自己の競争者がある技術のライセンスを受けて事業活動を行っていること及び他の技術では代替困難であることを知って、当該技術に係る権利を権利者から取得した上で、当該技術のライセンスを拒絶し当該技術を使わせないようにする行為は、競争者の事業活動の妨害のために技術の利用を阻害するものであり、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反するものと認められる。したがって、これらの行為は競争者の競争機能を低下させることにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第14項)。
 例えば、多数の事業者が製品市場における事業活動の基盤として用いている技術について、一部のライセンシーが、当該技術に権利を有する者から権利を取得した上で、競争関係に立つ他のライセンシーに対して当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、不公正な取引方法に該当する場合がある。

(2) ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対して、ライセンスをする際の条件を偽るなどの不当な手段によって、事業活動で自らの技術を用いさせるとともに、当該事業者が、他の技術に切り替えることが困難になった後に、当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、不当に権利侵害の状況を策出するものであり、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反するものと認められる。これらの行為は、当該他の事業者の競争機能を低下させることにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第14項)。
 例えば、共同で規格を策定する活動を行う事業者のうちの一部の者が、自らが権利を有する技術について、著しく有利な条件でライセンスをするとして、当該技術を規格として取り込ませ、規格が確立して多くの事業者が他の技術に切り替えることが困難になった後になって、これらの事業者に対してライセンスを拒絶することにより、当該技術を使わせないようにする行為は、不公正な取引方法に該当する場合がある。

(3) ある技術が、一定の製品市場における事業活動の基盤を提供しており、当該技術に権利を有する者からライセンスを受けて、多数の事業者が当該製品市場で事業活動を行っている場合に、これらの事業者の一部に対して、合理的な理由なく、差別的にライセンスを拒絶する行為は、知的財産制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる。したがって、このような行為が、これらの事業者の製品市場における競争機能を低下させることにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(注12)(一般指定第4項)。

(注12) 一定の制限行為が差別的に行われる場合に、当該制限行為自体が競争に及ぼす影響に加え、差別的であることによる競争への影響を検討することは、以下3ないし5に述べる行為類型についても同様である。

(4) 前記第3の1(1)オにおいて述べた,FRAND宣言をした標準規格必須特許を有する者が,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対し,ライセンスを拒絶し,又は差止請求訴訟を提起することや,FRAND宣言を撤回して,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対し,ライセンスを拒絶し,又は差止請求訴訟を提起することは,規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売を困難とすることにより,当該規格を採用した製品の研究開発,生産又は販売を行う者の取引機会を排除し,又はその競争機能を低下させる場合がある。
 当該行為は,当該製品の市場における競争を実質的に制限するまでには至らず私的独占に該当しない場合であっても公正競争阻害性を有するときには,不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項,第14項)。
 なお,FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者であるか否かの判断についての考え方は,前記第3-1(1)オにおいて述べたとおりである。

3 技術の利用範囲を制限する行為

 ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対して、全面的な利用ではなく、当該技術を利用する範囲を限定してライセンスをする行為は、前記第2-1に述べたとおり、外形上、権利の行使とみられるが、実質的に権利の行使と評価できない場合がある。したがって、これらの行為については、前記第2-1の考え方に従い権利の行使と認められるか否かについて検討し、権利の行使と認められない場合には、不公正な取引方法の観点から問題となる。

(1) 権利の一部の許諾

ア 区分許諾

 例えば、特許権のライセンスにおいて生産・使用・譲渡・輸出等のいずれかに限定するというように、ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用できる事業活動を限定する行為は、一般には権利の行使と認められるものであり、原則として不公正な取引方法に該当しない。

イ 技術の利用期間の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用できる期間を限定することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。

ウ 技術の利用分野の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して事業活動を行うことができる分野(特定の商品の製造等)を制限することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(2) 製造に係る制限

ア 製造できる地域の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造を行うことができる地域を限定する行為は、前記(1)と同様、原則として不公正な取引方法に該当しない。

イ 製造数量の制限又は製造における技術の使用回数の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を利用して製造する製品の最低製造数量又は技術の最低使用回数を制限することは、他の技術の利用を排除することにならない限り、原則として不公正な取引方法に該当しない。
 他方、製造数量又は使用回数の上限を定めることは、市場全体の供給量を制限する効果がある場合には権利の行使とは認められず、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

(3) 輸出に係る制限

ア ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を用いた製品を輸出することを禁止する行為は、原則として不公正な取引方法に該当しない。

イ 当該製品を輸出し得る地域を制限することは、原則として不公正な取引方法に該当しない。

ウ 当該製品を輸出し得る数量を制限することについては、輸出した製品が国内市場に還流することを妨げる効果を有する場合は、後記4-(2)-アと同様に判断される。

エ ライセンサーが指定する事業者を通じて輸出する義務については、後記4-(2)-イの販売に係る制限と同様に判断される。

オ 輸出価格の制限については、国内市場の競争に影響がある限りにおいて、後記4-(3)と同様に判断される。

(4) サブライセンス

 ライセンサーがライセンシーに対し、そのサブライセンス先を制限する行為は、原則として不公正な取引方法に該当しない。

4 技術の利用に関し制限を課す行為

 ある技術に権利を有する者が、当該技術の利用を他の事業者にライセンスをする際に、当該技術の利用に関し、当該技術の機能・効用を実現する目的、安全性を確保する目的、又は、ノウハウのような秘密性を有するものについて漏洩や流用を防止する目的で、ライセンシーに対し一定の制限を課すことがある。これらの制限については、技術の効率的な利用、円滑な技術取引の促進の観点から一定の合理性がある場合が少なくないと考えられる。他方、これらの制限を課すことは、ライセンシーの事業活動を拘束する行為であり、競争を減殺する場合もあるので、制限の内容が上記の目的を達成するために必要な範囲にとどまるものかどうかの点を含め、公正競争阻害性の有無を検討する必要がある。

(1) 原材料・部品に係る制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、原材料・部品その他ライセンス技術を用いて製品を供給する際に必要なもの(役務や他の技術を含む。以下「原材料・部品」という。)の品質又は購入先を制限する行為は、当該技術の機能・効用の保証、安全性の確保、秘密漏洩の防止の観点から必要であるなど一定の合理性が認められる場合がある。
 しかし、ライセンス技術を用いた製品の供給は、ライセンシー自身の事業活動であるので、原材料・部品に係る制限はライセンシーの競争手段(原材料・部品の品質・購入先の選択の自由)を制約し、また、代替的な原材料・部品を供給する事業者の取引の機会を排除する効果を持つ。したがって、上記の観点から必要な限度を超えてこのような制限を課す行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第10項、第11項、第12項)。

(2) 販売に係る制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術を用いた製品(プログラム著作物の複製物を含む。)の販売に関し、販売地域、販売数量、販売先、商標使用等を制限する行為(価格に係る制限については次項を参照)は、ライセンシーの事業活動の拘束に当たる。

ア ライセンス技術を用いた製品を販売できる地域及び販売できる数量を制限する行為については、基本的に前記3の柱書及び同(2)の考え方が当てはまる。しかし、当該権利が国内において消尽していると認められる場合又はノウハウのライセンスの場合であって、公正競争阻害性を有するときは、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

イ ライセンス技術を用いた製品の販売の相手方を制限する行為(ライセンサーの指定した流通業者にのみ販売させること、ライセンシーごとに販売先を割り当てること、特定の者に対しては販売させないことなど)は、前記アの販売地域や販売数量の制限とは異なり利用範囲の制限とは認められないことから、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(注13)(一般指定第12項)。

(注13) 種苗法上の品種登録がされた種苗について、種苗の生産に係るライセンシーが生産した種苗の販売先を種苗を用いた収穫物の生産に係るライセンシーに限ることは、収穫物の生産に係る権利の侵害を防止するために必要な制限と考えられる。

ウ ライセンサーがライセンシーに対し、特定の商標の使用を義務付ける行為は、商標が重要な競争手段であり、かつ、ライセンシーが他の商標を併用することを禁止する場合を除き、競争を減殺するおそれは小さいと考えられるので、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(3) 販売価格・再販売価格の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術を用いた製品に関し、販売価格又は再販売価格を制限する行為は、ライセンシー又は当該製品を買い受けた流通業者の事業活動の最も基本となる競争手段に制約を加えるものであり、競争を減殺することが明らかであるから、原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

(4) 競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンサーの競争品を製造・販売すること又はライセンサーの競争者から競争技術のライセンスを受けることを制限する行為は、ライセンシーによる技術の効率的な利用や円滑な技術取引を妨げ、競争者の取引の機会を排除する効果を持つ。したがって、これらの行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第11項、第12項)。
 なお、当該技術がノウハウに係るものであるため、当該制限以外に当該技術の漏洩又は流用を防止するための手段がない場合には、秘密性を保持するために必要な範囲でこのような制限を課すことは公正競争阻害性を有さないと認められることが多いと考えられる。このことは、契約終了後の制限であっても短期間であれば同様である。

(5) 最善実施努力義務

 ライセンサーがライセンシーに対して、当該技術の利用に関し、最善実施努力義務を課す行為は、当該技術が有効に使われるようにする効果が認められ、努力義務にとどまる限りはライセンシーの事業活動を拘束する程度が小さく、競争を減殺するおそれは小さいので、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(6) ノウハウの秘密保持義務

 ライセンサーがライセンシーに対して、契約期間中及び契約終了後において、契約対象ノウハウの秘密性を保持する義務を課す行為は、公正競争阻害性を有するものではなく、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(7) 不争義務

 ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務(注14)を課す行為は、円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面が認められ、かつ、直接的には競争を減殺するおそれは小さい。
 しかしながら、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項)。
 なお、ライセンシーが権利の有効性を争った場合に当該権利の対象となっている技術についてライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(注14) 「権利の有効性について争わない義務」とは、例えば、ライセンスを受けている特許発明に対して特許無効審判の請求を行ったりしないなどの義務をいい、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる権利をライセンサー等に対して行使することが禁止される非係争義務(後記5-(6)参照)とは異なる。

5 その他の制限を課す行為

 前記4のほか、ライセンスをする際に、ライセンシーの事業活動に様々な制限を課すことがあり、これらについての考え方は以下のとおりである。
 なお、ライセンサーがライセンシーに一定の制限を課すことがライセンサーの権利の行使とみられる行為である場合には、前記第2-1の考え方に従い検討することになる。

(1) 一方的解約条件

 ライセンス契約において、ライセンサーが一方的に又は適当な猶予期間を与えることなく直ちに契約を解除できる旨を定めるなど、ライセンシーに一方的に不利益な解約条件を付す行為は、独占禁止法上問題となる他の制限行為と一体として行われ、当該制限行為の実効性を確保する手段として用いられる場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第2項、第12項)。

(2) 技術の利用と無関係なライセンス料の設定

 ライセンサーがライセンス技術の利用と関係ない基準に基づいてライセンス料を設定する行為、例えば、ライセンス技術を用いない製品の製造数量又は販売数量に応じてライセンス料の支払義務を課すことは、ライセンシーが競争品又は競争技術を利用することを妨げる効果を有することがある。したがって、このような行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第11項、第12項)。
 なお、当該技術が製造工程の一部に使用される場合又は部品に係るものである場合に、計算等の便宜上、当該技術又は部品を使用した最終製品の製造・販売数量又は額、原材料、部品等の使用数量をライセンス料の算定基礎とすること等、算定方法に合理性が認められる場合は、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(3) 権利消滅後の制限

 ライセンサーがライセンシーに対して、技術に係る権利が消滅した後においても、当該技術を利用することを制限する行為、又はライセンス料の支払義務を課す行為は、一般に技術の自由な利用を阻害するものであり、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
 ただし、ライセンス料の支払義務については、ライセンス料の分割払い又は延べ払いと認められる範囲内であれば、ライセンシーの事業活動を不当に拘束するものではないと考えられる。

(4) 一括ライセンス

 ライセンサーがライセンシーに対してライセンシーの求める技術以外の技術についても、一括してライセンスを受ける義務を課す行為(注15、16)は、ライセンシーが求める技術の効用を保証するために必要であるなど、一定の合理性が認められる場合には、前記4-(1)の原材料・部品に係る制限と同様の考え方によって判断される。
 しかしながら、技術の効用を発揮させる上で必要ではない場合又は必要な範囲を超えた技術のライセンスが義務付けられる場合は、ライセンシーの技術の選択の自由が制限され、競争技術が排除される効果を持ち得ることから、公正競争阻害性を有するときには、不公正な取引方法に該当する(一般指定第10項、第12項)。

(注15) このような義務が課されているかどうかは、ライセンサーが指定する技術以外の技術をライセンシーが選択することが、実質的に困難であるかの観点から判断することになる。

(注16) 複数の特許権等について一括してライセンスを受ける義務を課す場合であっても、そのうち使用された特許権等についてのみ対価を支払う契約となっている場合には、ここでいう一括ライセンスには該当しない。

 <具体例>

 ○ X社が、取引先パソコン製造販売業者に対し、(1)表計算ソフトをパソコン本体に搭載又は同梱して出荷する権利についてライセンスをする際に、不当にワープロソフトを併せて搭載又は同梱させていたこと、(2)表計算ソフト及びワープロソフトをパソコン本体に搭載又は同梱して出荷する権利についてライセンスをする際に、不当にスケジュール管理ソフトを併せて搭載又は同梱させていたことが、それぞれ独占禁止法第19条(一般指定第10項)違反とされた(平成10年12月14日審決(平成10年(勧)第21号))。

(5) 技術への機能追加

 ライセンサーが、既にライセンスをした技術に新機能を追加して新たにライセンスをする行為は、一般的には改良技術のライセンスにほかならず、それ自体はライセンスに伴う制限とはいえない。
 しかしながら、ある技術がその技術の仕様や規格を前提として、次の製品やサービスが提供されるという機能(以下「プラットフォーム機能」という。)を持つものであり、当該プラットフォーム機能を前提として、多数の応用技術が開発され、これら応用技術の間で競争が行われている状況において、当該プラットフォーム機能を持つ技術のライセンサーが、既存の応用技術が提供する機能を当該プラットフォーム機能に取り込んだ上で新たにライセンスをする行為は、ライセンシーが新たに取り込まれた機能のライセンスを受けざるを得ない場合には、当該ライセンシーがその他の応用技術を利用することを妨げ、当該応用技術を提供する他の事業者の取引機会を排除する効果を持つ。したがって、このような行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第10項、第12項)。

(6) 非係争義務

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は、ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
 ただし、実質的にみて、ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は、後記(9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(注17) ライセンシーが所有し、又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対してライセンスをする義務を含む。

(7) 研究開発活動の制限

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術又はその競争技術に関し、ライセンシーが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを禁止するなど、ライセンシーの自由な研究開発活動を制限する行為は、一般に研究開発をめぐる競争への影響を通じて将来の技術市場又は製品市場における競争を減殺するおそれがあり、公正競争阻害性を有する(注18)。したがって、このような制限は原則として不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
 ただし、当該技術がノウハウとして保護・管理される場合に、ノウハウの漏洩・流用の防止に必要な範囲でライセンシーが第三者と共同して研究開発を行うことを制限する行為は、一般には公正競争阻害性が認められず、不公正な取引方法に該当しない。

(注18) プログラム著作物については、当該プログラムの改変を禁止することは、一般的に著作権法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)上の権利の行使とみられる行為である。しかしながら、著作権法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)上も、ライセンシーが当該ソフトウェアを効果的に利用するために行う改変は認められており(著作権法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)第20条第2項第3号、第47条の2)、このような行為まで制限することは権利の行使とは認められない。

(8) 改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務

ア ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーが開発した改良技術について、ライセンサー又はライセンサーの指定する事業者にその権利を帰属させる義務、又はライセンサーに独占的ライセンス(注19)をする義務を課す行為は、技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し、また、ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり、また、通常、このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので、原則として不公正な取引方法に該当する(注20)(一般指定第12項)。

イ ライセンシーが開発した改良技術に係る権利をライセンサーとの共有とする義務は、ライセンシーの研究開発意欲を損なう程度は上記アの制限と比べて小さいが、ライセンシーが自らの改良・応用研究の成果を自由に利用・処分することを妨げるものであるので、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

ウ もっとも、ライセンシーが開発した改良技術が、ライセンス技術なしには利用できないものである場合に、当該改良技術に係る権利を相応の対価でライセンサーに譲渡する義務を課す行為については、円滑な技術取引を促進する上で必要と認められる場合があり、また、ライセンシーの研究開発意欲を損なうとまでは認められないことから、一般に公正競争阻害性を有するものではない。

(注19) 本指針において独占的ライセンスとは、特許法に規定する専用実施権を設定すること、独占的な通常実施権を与えるとともに権利者自身もライセンス地域内で権利を実施しないこと等をいう。権利者自身がライセンス技術を利用する権利を留保する形態のものは非独占的ライセンスとして取り扱う。

(注20) ライセンシーが特許等の出願を希望しない国・地域について、ライセンサーに対して特許等の出願をする権利を与える義務を課すことは、本制限には該当しない。

(9) 改良技術の非独占的ライセンス義務

ア ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンシーによる改良技術をライセンサーに非独占的にライセンスをする義務を課す行為は、ライセンシーが自ら開発した改良技術を自由に利用できる場合は、ライセンシーの事業活動を拘束する程度は小さく、ライセンシーの研究開発意欲を損なうおそれがあるとは認められないので、原則として不公正な取引方法に該当しない。

イ しかしながら、これに伴い、当該改良技術のライセンス先を制限する場合(例えば、ライセンサーの競争者や他のライセンシーにはライセンスをしない義務を課すなど)は、ライセンシーの研究開発意欲を損なうことにつながり、また、技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化するものとなり得るので、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する(注21)(一般指定第12項)。

(注21) ライセンシーが開発した改良技術がライセンサーの技術なくしては利用できない場合において、他の事業者にライセンスをする際にはライセンサーの同意を得ることを義務付ける行為は、原則として不公正な取引方法に該当しない。

(10) 取得知識、経験の報告義務

 ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンス技術についてライセンシーが利用する過程で取得した知識又は経験をライセンサーに報告する義務を課す行為は、ライセンサーがライセンスをする意欲を高めることになる一方、ライセンシーの研究開発意欲を損なうものではないので、原則として不公正な取引方法に該当しない。ただし、ライセンシーが有する知識又は経験をライセンサーに報告することを義務付けることが、実質的には、ライセンシーが取得したノウハウをライセンサーにライセンスをすることを義務付けるものと認められる場合は、前記(8)又は(9)と同様の考え方により、公正競争阻害性を有するときには、不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

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